小樽市出身の作家・朝倉かすみさんの小説「ぼくは朝日」が3月5日、潮出版社(東京都千代田区)から文庫判で刊行された。
2018(平成30)年11月に四六判で発売された同作品。主人公の小学生「朝日」が、家族や友人、近所の人々などと交わりながら、1970(昭和45)年の小樽を舞台に笑いや涙を誘う人間模様が描かれている。主人公「朝日」の放課後の行動範囲などから、主に入船、緑、松ヶ枝地区と思われる作中の舞台には、かつて同地区に存在していた「東京堂書店」「日の丸食堂」、「小松米穀店」と思われる店も登場し、昭和中期の同地区のにぎわいを思い起こさせる。登場人物の台詞にちりばめられる小樽や北海道の方言は、当時の小樽の人々の暮らしぶりや市民性を生き生きと描写している。
朝倉さんは「『ぼくは朝日』は、私が初めて男児を主人公にした小説。私は彼を、私の『いちばん』好きな男の子にしたいと思った。機嫌がよくて、暇そうに見えるけど本人的には忙しくて、素直で、それなりにわんぱくで、心の中にすごく柔らかな部分があって、悲しみを知っていて、たて笛が上手な子。私の『いちばん』好きな男の子の住む所は、私の『いちばん』好きな街である小樽よりほかに考えられず、ならば時代もというわけで、私が『いちばん』子どもらしく笑っていた1970年にした。私の『いちばん』が詰まっている小説」と話す。
朝倉さんは、北海道を離れ首都圏に拠点を移した今も、事あるごとに小樽を訪れているという。現在も、「配られる」という意味の方言「あたる」や自分の意思ではなく、何かを行動に移してしまった時に使う「~さる」などの方言を使っているという。最近は、眼科を訪れた際に、症状を説明しようと「左目がいずいんです(違和感があるのです)」と思わず言ってしまったという。
朝倉さんは1960(昭和35)年、北海道小樽市生まれ。2003(平成15)年に「コマドリさんのこと」で第37回北海道新聞文学賞、2004(平成16)年に「肝、焼ける」で小説現代新人賞を受賞。2005(平成17)年に「肝、焼ける」で単行本デビュー。2009(平成21)年に「田村はまだか」で吉川英治文学新人賞を受賞。著書に「てらさふ」「遊佐家の四週間」「乙女の家」「少女奇譚 あたしたちは無敵」「満潮」「ぼくは朝日」「平場の月」など。