小樽出身の俳優・港幸樹さんが、大林宣彦監督作品「はるか、ノスタルジィ」(1993年公開、東宝)にエキストラ出演した思い出を語った。
同作は、生まれ故郷の小樽を訪れる人気作家・綾瀬慎介(勝野洋)が帰郷先で偶然に知り合った「はるか」(石田ひかり)という少女の案内で小樽を巡り、綾瀬の本名・佐藤弘(松田洋治)を名乗る不思議な少年に導かれるように、綾瀬自身の辛い過去の記憶をたどり、自己を再生していくストーリー。原作は、小樽出身の作家・山中恒さん、音楽は久石譲さんが担当した。
港さんのエキストラとしての出演は、綾野がはるかを連れ母校を訪れるシーン、現在は廃校となっている旧石山中学校で撮影された。港さんは、校門で綾野とはるかがすれ違うブラスバンドマーチのバスドラムをたたく部員役で、1分弱のシーンに出演。そのシーンの撮影をするために、勝野さんと石田さんと同じロケバスで撮影現場に向かい、大林監督から演技指導を受け、リハーサルと本番、それぞれ数回の演技をしたという。
当時の港さんは、小樽潮陵高校ブラスバンド局に所属する普通の高校生で、クラリネットや指揮者を担当した。父親が教師だったこともあり、自分自身も教師になるのだとぼんやりと将来を思い描いていたという。高校卒業後、北海道教育大学札幌校に進学すると小学校課程音楽科に進み、指揮・ソルフェージュ(音楽基礎)を専攻。教師になる道を着実に歩んでいた。港さんに転機が訪れたのは、教育実習や教員採用試験が終わった大学4年の秋。劇団四季の北海道公演で目にした劇団員オーディションの告知チラシだった。「おそらく自分は教師になる」との思いを抱きながら、半ば「記念受験」のように、東京でのオーディションに参加した。結果は合格。猛反対を予想しながら、両親に相談すると、「本当にやりたいことをしてほしい」と港さんの背中を押してくれたという。
港さんは「大林監督の訃報に触れ、いつか監督の作品にもう一度関わり、『昔、監督の作品にエキストラ出演させていただきました』と伝えたかった」と寂しそうに話す。「高校時代のエキストラ出演は、今でも懐かしい思い出。北海道の地方都市の高校生にとって、大林監督や勝野洋さんや石田ひかりさんを間近に見て、一緒に演技できたことは大変貴重な経験だった」と当時を懐かしんだ。
港さんは、1975(昭和50)年生まれ。2000(平成12)~2004(平成16)年、劇団四季に所属。現在は、舞台や映像作品を中心に俳優活動を行うほか、歌唱指導や音楽監督などの分野でも活躍。主な出演は、「カルメン」「フィガロの結婚」「椿姫」(以上、オペラ)、「オペラ座の怪人」「レ・ミゼラブル」「ライオンキング」「ミス・サイゴン」(以上、ミュージカル)など)。